ここから本文です。

市報うんなん2016年9月号

ここから本文です。

雲南病院だより

市立病院建設工事起工式

雲南市立病院建設工事の起工式を7月16日、建設地(大東町飯田)で行い、島根県、各種団体、工事関係者など87人のご臨席を賜り、工事の安全を祈りました。
松井 譲(まついゆずる)病院事業管理者は、起工式のあいさつで「病院建設は、4年間を掛け基本構想、基本設計、実施設計、改修事業と進めてきました。この十数年、老朽化した上に6人室のある病棟から時代に適応した療養環境を患者さんに提供したい立場にある者として、本日こうして新病棟建設の起工式を挙行することは、念願かなう第一歩として安堵しています。また、地域医療を取り巻く環境は厳しい状況ですが、職員一丸となり、一致団結し、全力で取り組んでいく覚悟です」と述べました。
速水市長の式辞では「市立病院は雲南医療圏における中核的な機能を備えた病院でありますが、病院施設の老朽化や狭隘化により、その建て替えが懸案とされてきたところです。このたびの新本館棟建設により、充実した機能によって質の高い地域医療が提供できる新病院の完成を心待ちにしています。新たな病院が21世紀に相応しい地域医療の充実に寄与し、雲南市および雲南医療圏の皆様が、より安全・安心に暮らしていただける病院運営をめざしていただくよう支援します」と述べました。
今後の建設予定は、新本館棟を平成30年3月末までに開院、平成31年9月にはグランドオープンとなるように工事を進めます。
工事期間中は、皆さんにご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いします。

松井譲病院事業管理者
松井譲病院事業管理者

速水雄一雲南市長
速水雄一雲南市長

建設現場の状況
病院南側から撮影した建設現場の状況(7月23日撮影)

病院イメージ図
病院イメージ図

高校生医療現場体験セミナーを開催しました

当院では年に2回、夏休みと春休みの期間に高校生医療現場体験セミナーを行っています。7月28日(木曜)、今年度一回目の夏季セミナーを開催し、市内外の高校から、将来、医師・看護師などの医療職を希望する学生15人が参加しました。
当日は、希望職種ごとにグループに分かれ、看護師希望は各病棟で看護業務を中心に体験を行い、医師とリハビリ希望はそれぞれの現場で体験を行いました。参加者は、一人ひとりが主体的に取り組み、現場スタッフの話を真剣に聞いていました。また、時折笑顔も見られ、とても雰囲気よく体験に取り組んでいました。
シミュレーターを使ったお年寄り体験や採血・縫合体験では、楽しく真剣に取り組んでいました。最後はグループディスカッションを行い、この体験で感じたことや今後どのように生かしていくのか、一人ひとりの考え方や思いの意見交換を行い、体験をより深めることができました。
今回の経験が、将来の進路選びの参考やきっかけになることを期待しています。

リハビリ体験
リハビリ(作業療法)体験の様子

模擬採血
模擬採血の様子

お年寄り体験
お年寄り体験の様子

集合写真
集合写真

高校生一日助産師体験開催

7月27日(水曜)、市内の高校から3人の生徒が参加し一日助産師体験を行いました。
午前中は、助産師から赤ちゃんの特徴や気をつけるべきことを学び、生後2日目の赤ちゃんの沐浴を体験しました。生徒は、大きな声で泣いている姿を見て、赤ちゃんの力強さを実感しました。その後、妊婦体験を行い、体験中はお腹が想像以上に重く、動くことも一苦労であることを実感し、改めて妊婦さんの大変さを知ることができました。
午後は、助産外来「ここまち」を見学し、エコーでモニターに写る赤ちゃんに感動したり、笑顔でお母さんと接していました。
参加した生徒は、「将来、助産師になって新たな命との出会いの場に立ち会いたい」、「産んでくれた親に感謝したい」、「帰って、親に自分が産まれたときのことを詳しく聞きたい」などと感想を述べていました。

助産師外来
助産師外来にて

新生児の特徴を説明
新生児の特徴を説明

妊婦模擬体験
妊婦模擬体験の様子

雲南市における高齢者の栄養調査について

雲南市立病院 院長 大谷 順(おおたにじゅん)

研究の目的

急速な高齢化に伴って介護を要する高齢者が急増しており、その対策が国家的課題ともなっています。なかでも栄養問題は、高齢者の健康を考える時、非常に重要な問題であると考えられています。栄養不良は筋肉の減少とも言い換えることができますが、その結果、転倒・骨折で寝たきりになったり、低栄養に起因する免疫力の低下によって肺炎や腎盂(じんう)炎などの感染症になり、健康長寿を全うできなくなってしまいます。そこで今回、県の補助事業として、栄養不良の治療、予防に繋げることを目的に、当雲南地域に在住の高齢者に、栄養不良または栄養不良に陥る危険性を持った人がどれくらい存在するかを簡単なアンケート調査によって調べましたので、その結果を紙面をお借りしてご報告します。

調査対象者

対象者は、雲南市在住、生活のほとんどを自宅で過ごしている65歳以上で、文書による調査の目的と方法に同意を得た方です。

調査期間と方法

平成27年8月、調査対象者と介護者(対象者が認知症などにより回答できない場合)に、簡易的な栄養評価の調査票(MNA:Mini NutritionAssessment)と記入の手引きを送付し、記載後返送していただきました。
調査結果は点数で評価し、栄養状態を
(1)良好(14~12点)
(2)危険性あり(11~8点)
(3)栄養不良(7~0点)
の3つに分け、それぞれの人数を、男女別、年齢別、地域別に集計・評価を行いました。
また、回答者の中から無作為に選ばせていただいた70人の方については、調査票記入のほかに計器によって実際の筋肉量等を調べる身体測定も個別に同意を得た後に行いました。
これは、今回の簡易的な栄養調査で本当に栄養状態の悪化、すなわち筋肉量の低下が分かるかということを実証するためで、調査票の点数と実際の筋肉量の相関(信頼性)をみています。

結果

アンケート配布数1万5千枚に対して、8,872人の方から回答をいただきました。(表1)

表1
回答数 8,872人(アンケート配布数15,000枚)
回答率 59.1%(有効回答者8,414人、有効回答率56.1%)
年齢 76.6±8.25歳(65~107歳)
性別 男4,966人/女3,906人
「栄養状態良好」と判断された人は、全体の約7割で、残りの3割の人が「栄養不良の危険性あり」、または「栄養不良」という結果になりました。また、男女別にみても、地域別にみても、この傾向に大きな違いはありませんでした。(図1)

 

図1

栄養不良、またその危険性のある人は高齢者に多くみられることも分かりました。(図2・3・4)

図2
「栄養不良なし」の人は、65歳-75歳が最も多く、年齢が上がるに従って減少する傾向にありました。

図3
逆に、「危険性あり」の人の割合は年齢が上がるに従って増えることがわかります。

図4
「栄養不良」とされる人の割合も、年齢が上がるごとに増加しています。

男女で比べてみると、女性の方に栄養不良、またはその危険性のある人が多いという結果でした。(表2)

男女別の結果(表2)
MNA 14-12点 11-8点 7-0点
男(人) 2635 914 109 3658
女(人) 2993 1531 262 4786

男女間の比較では、「栄養不良なし」に男女差はありませんでしたが、「危険性あり」、「栄養不良」では、ともに女性が有意に多いという結果でした。

アンケートによる調査結果と計器による客観的な推定値に大きな違いはみられませんでした。(図5)

図5
回答者の中から無作為抽出した70人のMNAと筋肉量との相関をみると、両検査結果の間にr-0.41と有意な相関がみられました。
※アンケート調査の結果が、機器による客観的な検査の結果とほぼ等しいといえる結果です。

考察

近年、高齢者における健康問題のひとつに、「栄養不良」が挙げられています。「サルコペニア」あるいは「隠れ栄養不良」という用語で、マスコミにも取り上げられていますが、簡単に言うと、筋肉の材料であるたんぱく質の摂取不足が原因で筋肉が減少する栄養不良のことです。筋肉が落ちるため、転倒して骨折をしたり、床ずれなどが起こりやすくなります。たんぱく質の減少は免疫力も低下させるため、肺炎などの感染症にかかりやすくもなりますし、治療をしても、回復に、より多くの時間がかかります。寝たきり予防の運動やリハビリも重要ですが、何より栄養不良に陥らないように普段から気を付けることが重要です。飽食時代とも言われる現代に栄養不良とは一見不可解ですが、高齢者ではエネルギー、たんぱく質摂取がともに低下しており、とくに筋肉の消耗が顕著なことが特徴です。筋肉は減っても脂肪は保たれていたり、たんぱく質不足からくる浮腫(むくみ)のために、一見して栄養不良には見えないこと、またきわめて徐々に進むため、周りも気付きにくいことも高齢者の栄養不良の特徴で厄介な問題です。

今回の私たちの検討は、地域で普通に生活する高齢者の中に潜在的にどれくらいの栄養不足、あるいはそのリスクのある人が存在するかをみるものでした。栄養調査の方法は色々なものがありますが、今回私たちが用いたMNAという調査票は、日本ではコーヒーで有名ですが、実は世界で最大の食品メーカーであるNestle社が提供する高齢者の栄養状態を評価するツールとして世界的に広く認知、利用されている国際標準的な栄養調査法です。簡単な質問で、5分程度で行えるので、施設や在宅などで誰でも使用可能とされています。一般的には医療専門職により行われるものですが、今回、私たちの行った文書による調査票記入の解説によって自己記入をしていただく評価でも、十分に信頼できるデータが得られたと思います。

今回の私たちの検討では「低栄養」「危険性あり」が回答者の約3割という結果でした。
今回のように健常人も含む大規模な研究はかつて存在しないため、正確な比較はできませんが、高齢者が低栄養に陥った際、その度合いによっては、回復不能になる割合も若年層より遥かに高いこと、さらに危険性ありの高齢者の50パーセントが1年以内に入院などの有害事象を起こすとも言われていることを考えると、この3割という数字は決して少なくないと思います。そして、簡便な調査方法であるMNAの精度に関しては、無作為抽出の70人に対して行った、客観的な栄養評価法であるBIA(SMI)の結果と良い相関をみせたことから、MNAは信頼に足るものと判断してよいと思われます。

今後、地域に存在する潜在的に栄養不良またはその危険性のある高齢者の皆さんに対して、どのような方法で栄養改善を進めていくかが、病気や、寝たきりの発生を予防し、結果として健康寿命を延ばすために重要な課題となってきます。とくに、女性で「危険性あり」「低栄養」と判断される人が男性に比べて有意に多かったことは、食生活の主導権を握り、家庭内での影響力も強い女性に対して、積極的な啓発活動を含めた介入を行うことで、より効率的に地域内での栄養不良の予防が可能になるのではないでしょうか。今後はこれまでは言われていなかった男女差も意識した栄養介入の必要性が示されたと思います。

まとめ

地域に暮らす65歳以上高齢者に対して、簡易的な栄養調査票を用いた集団的な栄養評価を行いました。その結果、約3割の方に栄養不良、またはその危険性があるという結果となりました。栄養不良、または危険性ありとされた方に対しては、有効な栄養介入を講じる必要性が示されました。当院では、栄養外来を開設しておりますので、気になる方はご相談ください。この調査方法は、客観的なデータとの相関性も強いことから、低コストで、人手も極力少なく実施できる、栄養評価法として、地域における健康管理の一助となります。今後はぜひ行政や地域の皆様のご理解とご協力をいただき、継続的な事業運用がなされることを望みます。
最後に、昨年度、本調査・研究にご協力をいただいた県、市の関係各所、および市民の皆様に紙面をお借りいたしましてお礼を申し上げます。


もしもに備えて

防災情報

急病時の医療機関